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Vol.4 ベトナム・ハノイ訪問記

~アジア太平洋障害フォーラム(APDF)に参加して~

フォーラム会場の様子
フォーラム会場の様子。
期間中に「障害者権利条約に批准」の一報が
会場に流れ、歓喜の渦に。

歓迎ムードにあふれる懇親会
歓迎ムードにあふれる懇親会

 2014年11月26日~28日、ベトナム・ハノイにおいて「アジア太平洋障害フォーラム(Asia and Pacific Disability Forum:APDF)2014・ハノイ会議」が開催され、日本団の一員として参加いたしました。

 今回のホスト国にベトナムが選ばれた背景には、「ベトナム障害者法(2010 年)」の制定に携わるなどの大きな役割を果たしてきた、ベトナム障害者団体連合会(Vietnamese Federation on Disabilities :VED)の尽力があったと聞いています。

 そのことを象徴するかのように、会場となったメリア・ハノイホテルのコンベンションホールには、各国からの参加者のほか、政府代表者や主要企業、マスコミ、さらにはフォーラム運営を献身的に支えてくれた多数の学生ボランティアなど、述べ1,000人が集結、うち日本からは35名が参加という規模となりました。

 加えて11月28日の午前中には、同日に会期の最終日を迎えたベトナム国会において、障害者権利条約を正式に批准したとの速報が入り、歓喜の瞬間を多くの関係者と共有することができた、まさに記念すべきフォーラムとなりました。

 全体会では、「アジア・太平洋障害者の十年(2013‐2022)」の行動指針として2012年に採択された「インチョン戦略」の直近2年間の報告に重きが置かれました。全体会は最後にも行われ、2016年の「フィジー会議」に向けて、行動の加速化が確認されました。

 分科会では、自身の仕事にも関連する「雇用と職業訓練」を選び、ベトナムの雇用政策に触れる機会を得ました。正式な統計ではないものの、ベトナムでは総人口の約8%にあたる700万人が障害者であり、うち7割が労働人口といわれています。政府代表のプレゼンでは、権利条約の批准に向けた国内法令の整備の動きに合わせ、職業訓練機関(約270)およびプログラム(約1,300)の充実と多様化をこの数年で大きく進め、また貧困対策や教育(特に大学への進学)、障害のある女性の就労促進なども併行、さらには政府系金融機関による融資対策の紹介などもあり、近年の雇用関連対策の進展をうかがい知ることができました。

途切れないバイクの列と騒音
途切れないバイクの列と騒音は、
ベトナムの交通インフラの課題を象徴している。
改修されないデコボコ舗装も随所に目立つ。

 その一方で、フロアからの質疑では、障害のあるベトナム人女性からの「私はジャーナリストを目指し大学で学んでいるが、こうした仕事は障害者向けにデザインされていない。このままでは卒業後、その選択肢がない」といった、限定的な職種に対する切実な声もありました。

 また、ホテルの敷地から一歩でも出れば誰もが直面する「交通インフラの課題」も経験し、雇用分野に限らずいまだ多くの困難が存在していることや、当事者の目線との乖離も垣間見ることとなりました。権利条約批准後の政策審議や決定過程における、当事者参加の一層の重要さを指摘するフロアからの声も非常に大きなものと感じました。

団体移動用バス
今回、日本参加者の団体移動用バスには
リフト付き車両が用意されていなかった。
車いすユーザー数名が人手をかりて乗降した。
リフト付きの貸切バスは少なくとも
委託した旅行会社の情報では「ない」とのこと。
草の根的に探せば見つかるかもしれないが、
まるで一昔前の日本のようだ。

 講演やプレゼン、質疑応答、そして懇親の場を通じ、一貫して印象に残ったこととして、特にここ数年の日本がそうであるように、「当事者主体」「当事者参加」の場面が年々増加し、定着しつつあるということが挙げられます。しかし、当事者の声や行動が、制度や条約などを推し進める強い原動力となってきたのは、「ようやく今世紀に入ってから」という意見も聞きます。

 しかし、今回APDFに参加し、障害者権利条約の批准表明という歓喜の瞬間を体験した一方で、「ここからが本当のスタート」と気を引き締めるベトナムの人たちの声の多さに、同じく2014年に批准した日本の今後に対する思いの重なりを感じました。

 課題は両国それぞれに山積みですが、APDFでもより一層の高まりをみせた「当事者主体」の機運は、この先の改善と発展をさらに押し上げていくものと思います。

 追記
 会議終了の翌日、まるで「観光客向けの大型ショッピングセンター」のような職業訓練施設を視察する機会に恵まれました。そのようすが「週刊福祉新聞 平成27年1月19日号」に掲載されています。こちらもあわせてご一読いただければ幸いです。福祉新聞社のサイトからご覧いただけます。

福祉新聞WEB>記事紹介
「障害者権利条約に期待 ベトナム、施策発展へ機運高まる」

(吉田 岳史/東京都葛飾福祉工場・SOHOコーディネータ)

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