ITで広がる障害者の在宅就労

通勤ない利点も介護サービスとの併給が壁に

 IT(情報通信技術)の発展に伴い、重い障害のある人の在宅就労の機会が増えている。障害者総合支援法の就労系サービスを在宅で利用することも認められ、障害者が持てる可能性を生かして働く希望の働き方にもなっている。「すべての人に柔軟な働き方を」とさらなる広がりが期待される中、制度上で新たな問題も浮上している。(榎戸新)

中川さんの仕事風景
自宅なら体調に合わせて働きやすいという中川さん

 都内で一人暮らしをする中川美貴子さんは週5日、1日約4時間、自宅でパソコンに向かう。グラフィックデザイナーとして、ウェブやポスター、ロゴなどのデザインを制作する仕事をしている。
中川さんは中学生のころ進行性の筋ジストロフィーを発症し、今は重度訪問介護を1日17時間利用して生活している。夜間は人工呼吸器をつける。パソコンの技術は主に独学で覚えた。仕事は期日に間に合うよう自分のペースで丁寧に仕上げていく。デザインが不採用になることや練り直しを指示されることもある。
障害者の在宅就労の主な形態には①一般企業雇用②自営③福祉的就労の三つがある。中川さんは社会福祉法人東京コロニー東京都葛飾福祉工場の就労継続支援A型(雇用型)を在宅で利用する福祉的就労だ。

ワークシェアも

 同法人は2000年に自営で在宅就労を希望する障害者が集まり「es-team(エス・チーム)」を結成した。中川さんも当時の一員。ワークシェア、チームワークにより規模の大きな仕事も受け、昨年の取扱高は800万円を超えた。

エス・チームのセミナーの様子
エス・チームのセミナー。半数が在宅で働きたいという

 同法人では、もともと障害者のIT教育にも力を入れており、過去20年間で、ここで学んだ115人超が在宅就労者となった。仕事内容はウェブデザイン、プログラミング、CADなど多様化しており、職能開発室所長の堀込真理子さんは「在宅で働く障害者が『仕事ができる』と証明してきた結果」と話す。
 エス・チームは6月に結成15周年セミナーを開いた。参加した約30人のうち半数は在宅で働きたいと考えている重度の障害者。法人にも毎日のように問い合わせがあり、在宅就労への関心は高まっているという。
 中川さんは「自宅なら動きやすいし、体調に合わせて休憩もとりやすい。それに通勤がなければその分の体力を仕事に生かせる」と在宅就労のメリットを話す。

ヘルパーもほしい

 就労系サービス(就労継続支援A型・B型は12年度から、就労移行支援は15年度から)を在宅で利用することが可能になったが、それを阻む問題が生じている。
 IT在宅就労推進係主任の吉田岳史さんは「就労系サービスを利用している時は、重度訪問介護を利用できない。公的な支援が重複してはいけない仕組みになっている」と嘆く。せっかく在宅利用が認められたが、ヘルパーを同時に利用できないため、働きたくても諦めてしまっている人がいるという。
 中川さんも在宅で働いている間は通常ヘルパーを利用できずトイレなどに不自由を感じている。一人きりだと地震などの緊急時への不安もある。
 また、在宅で働きたい人と仕事を依頼したい企業などとのマッチングも課題で、06年度から障害者雇用納付金制度に在宅就業障害者への発注奨励策が設けられたが、普及までにはほど遠い。
 同法人はサービス併給問題の改善を求めて厚生労働省に意見書を提出した。一方で、事業所向けには在宅就労に特化した就労移行支援事業ハンドブックを作成した。
 吉田さんは、在宅就労を「通勤という移動の負担がなく、自宅という慣れた環境で働け、重度の障害者一人ひとりに合わせた多様な働き方が可能になる」とし、今後もその推進に向け取り組んでいく。

2015年7月27日 福祉新聞掲載記事

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