エス・チームは、在宅就労支援のパイオニア、(福)東京コロニーが運営する、働く障害者のチームです。
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森 清 先生におかれましては、2018年1月に逝去されました。
永年のご厚情に深謝いたしますとともに、謹んで哀悼の意を表します。

労働研究家 森 清さん特別寄稿

中小企業経営論、労働論などをテーマに、現場に密着した著作で定評のある労働研究家・森 清(もり・きよし)さん。 障害のある人の「働く」についても、豊富な取材に裏付けられた考察で多くの示唆を与えてくれます。
そんな森先生が、在宅ワーカーへのエール「『職人』であろう」を寄せてくださいました。
続稿「職業人の在りよう」と併せて掲載します。

職人であろう

働くとは生きることであり、生きるとは生活することである。生活するとは、それぞれの年齢や心身の障害に基づく個性、条件に適う健康への努力をして働き、人生を楽しむことだ。先ず仕事と生活を大事にして顧客や支援者たちと暮らし合っていこうと呼びかける。 働く人は「職人」であってほしい。 職人とは、恥じない仕事をする人のことである。できる仕事には優劣がある。だから恥じない仕事をする働きとは、その人にとって精一杯の働きであり、進化する努力を怠らないことである。 仕事は、ほとんどが注文主か注文を働き手に割り当てる人がいて始まる。その、注文主なり世話役は、働き手の力量を判断して依頼する。その人たちの期待に応えるのが働き手の役割であり、ほぼ間違いなく要望に応えられる働き手が「職人」の名に値する人である。 職人が仕事能力を高める過程を「修行」という。その始まりは、仕事の仕方を教わるのではなく、生活の仕方を見習うことである。自分の身の回りを整え、仕事場に早く出て清掃し、道具を磨くなりして職人さんや親方が働きやすいように努める。以前は、親方の家の拭き掃除、子守りもした。そうした働きの中で、働く人としての心の在りようを身に付けたのである。仕事の技は生活をしっかり営める者にしか身に付けられないと考えられていた。現在は、そうしたことよりもパソコン早く打てるか、プログラムをよく組めるかに気持ちが行く。それでは、仕事の表面しか身に付けられないだろうし、あるいはその仕事を長く続けられないだろう。生活の仕方には、当然、体調管理も入る。 『職人を生きる』という本がある(鮫島敦、岩波ジュニア新書、2008年)。その「あとがき」の冒頭に、「職人の人生とは、精進の人生である」と書かれている。恥じない仕事の働きをするには、ずっと精進するしかない。心したいことである。この本はものづくりの職人さんのことを書いているけれども、働く基本を知るのにもいい。ほかに、小関智弘さんの『職人ことばの「技と粋」』(東京書籍、2006年)をも挙げておく。 仕事をする時には辛いこともある。けれども、精一杯努めて働けばすがすがしい気分を味わえるものでもある。その感触を大切にして働き、生きていこう。

職業人の在りよう

この3月に発行された『在宅就業支援ガイドブック』東京コロニー・職能開発室)に「『職人』であろう」という拙文を寄稿した。  その中で「職人とは、恥じない仕事をする人のこと」、その「職人」になるには仕事の技を鍛えないといけないし、それには「生活をしっかり営める者に」なることが先ず大事だと書いた。その自分の文章を改めて読み、これは高揚し過ぎと反省した。  書いたことが立派過ぎる。間違いではないけれども、そのような人はそう多くいない。職人さんには身勝手な人がいたし、喧嘩っ早い人もいた。それでいていい仕事をする人もいた。生活は自堕落ながら、自分の仕事には集中してそれなりの仕事をする職人さんもいた。そういう人たちの中で、先に挙げた条件にほぼかな う人は、職人頭になれるような人で、数少ない。もっとも、現代社会は平準化社会で、誰にも同じような資質と力を求める。だから、古いタイプの「職人さん」 では通用しない。このことは心したい。  「障害は個性」であるから、障害ワーカーは相当に個性豊かな人たちだということにな る。そのことを承知してそれぞれの個性に適合した仕事をしてもらうのが雇用する側の役割であり、それでこそ経営に役立てられるというものだ。先のガイドブックには、職務を分割し、複数の在宅障害ワーカーをネットワークして成果をあげているワークスネット社の事例が紹介されていた。好事例である。ワーカー は振られた職務に力をこめ、さまざまな人と働き合って生きていることを自覚し、幸せを噛みしめ合ってほしい。   「イイカゲン」と「ヨイカゲン」という言葉がある。「イイカゲン」は自分のことを主にしての行動で、「ヨイカゲン」は成果を受け取ってくれる人のことを思いやりながら素材や機械・器具をうまく扱う働きのことである。いうまでもなく、後者を心掛けたい。そして、働きはじめには「教えたくなる人」、ベテランに なれば「気楽に教えてくれる人」になるよう努める。それがいい仕事をする職業人の在りようだと思う。

(森 清、労働研究)

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